【ボルボ V90試乗】走りもデザインも、強力なドイツ勢と肩を並べるトップワゴン

ただし、そんなボルボがジャーマンブランドのオルタナティブたりえるのは、実はミドルクラスまで。その上の車種となると、正直、影が薄い。大柄で、優しくて、包容力はあるけれど、おつきあいはちょっと…と感じるユーザーが多かったようです。

こうしたボルボの“ガラスの天井”を突き破ったのが、同社初のSUV「XC90」でした。「エココンシャスなイメージが強いボルボが、ついに環境に優しいとはいいかねるSUVに手を出したか!」とショックを受けた人もいたようですが(←ワタシです)、その後の快進撃は、皆さまご存じのとおり。

そして昨2016年、今やボルボのイメージリーダーといっても過言でないXC90がフルモデルチェンジを受け、よりビッグになって、シンプル&モダンなデザインをまとって、そして前モデルよりプレミアムになって、つまりお値段がお高くなって登場したことは、すでにご報告済みです。

そんな、2世代目XC90のローンチからほぼ1年遅れで、90シリーズの他のモデルが日本でも発売されました。セダンの「S90」、ワゴンの「V90」、そしてクロスオーバーの「V90クロスカントリー」です。ここでは「V90 T6 AWD インスクリプションの第一印象をご報告します。

新しいV90を目にした時、ちょっとクルマに詳しい人なら「オッ!」と思うことでしょう。クールでスタイリッシュな外観は元より、記憶の奥から引っ張り出される車名があるはず。そう、ペール・ペターソンの手になる1960年代のハンサムカー、ボルボ「P1800」です!

「いや、V90なら『1800ES』じゃないか!?」と突っ込んだアナタ、正解です。P1800のワゴンボディですね。残念ながら1800ESを特徴付ける近未来的なガラスハッチは、21世紀のV90には採用されませんでしたが、それはともかく、新しいS90/V90のグリルまわりのデザイン処理は、P1800、1800ESへのオマージュそのもの。モダンなボディスタイルの中に、ヘリテージデザインを上手に溶け込ませています。

でも、両車が1960年代の佳作を連想させるのは、そうしたディテール処理のためだけではないのです。新しいトップ・オブ・ボルボから少し離れて、目を細めて、ひとつの塊としてクルマを眺めてみると…、ノーズが長い! ニューモデルが「やけにりゅうとしてるな」と感じる理由が、コレです。フロントタイヤと前ドア間の寸法が長く採られ、あたかもエンジンを縦置きしたFR(後輪駆動)モデルのようなプロポーションになっています。

XC90を含む90シリーズは、新世代プラットフォーム“スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)”を採用し、フロントに4気筒の“DRIVE-E”エンジン(とトランスミッション)を横置きし、前輪を駆動させるのが基本的な構造です。AWDこと4駆モデルもFFベースです。

スペース効率を考えると、今回のFRルックより、かつてのキャブフォワード(エンジンルームを最小にし、キャビンを前進させて車内空間を大きくとる)スタイルの方が理に適っています。でも、アッパーミドルクラスともなると“実用”を超えた“風格”が必要になる、とボルボの開発陣は判断したのでしょう。FRプロポーションを持つFFベースのクルマがどのように評価されるのか? いよいよアッパーミドルたる90シリーズも、ジャーマンプレミアムのオルタナティブたりえるのか? ボルボのユニークな挑戦に注目です。

さて、新型V90の概要を見ていきましょう。スウェーディッシュテイストあふれるエステートのボディサイズは、全長4935×全幅1890×全高1475mm。堂々とした大きさです。絶えて久しいかつてのトップワゴン「960エステート」と比較すると、全長、全幅がそれぞれ75mmと115mm上回る一方、車高は20mm低くなっています。広く、低い、スポーティなディメンションになりました。

内装は、XC90が先行して披露していたように、暖かみあるレザー、ウッドパネル類と、ハイテクの象徴たる大型ディスプレイ(メーターは12.3インチ、センターコンソールは9インチの縦型)を上手に組み合わせ、全体として瀟洒にまとめあげています。

オーディオに凝りたい人には、英国の高級スピーカーブランド“Bowers & Wilkins(バウアーズ&ウィルキンス)”のシステムがオプションで用意されます(45万円)。

エンジン、というか、パワーソースは3種類。新V90のグレードと照らし合わせていくと…。

2リッター直4ターボ(254馬力/35.7kg-m)の「V90 T5 モメンタム」(664万円)。同ターボエンジンに、さらにスーパーチャージャーを加え、スポーティに装った「V90 T6 AWD Rデザイン」(320馬力/40.8kg-m/789万円)、そのラグジュアリー版「V90 T6 AWD インスクリプション」(799万円)。2種類の過給機に電気モーター(87馬力/24.5kg-m)を加えたハイブリッドモデル「V90 T8 ツインエンジン AWD インスクリプション」(899万円/2017年9月頃デリバリー開始予定)が用意されます。トランスミッションはいずれも8AT。駆動方式はT5がFF(前輪駆動)のほか、T6、T8は4WDとなります。

足回りは、フロントがコンベンショナルなマクファーソンストラットから、ハンドリング面で有利と見なされるダブルウィッシュボーンになりました。リアはマルチリンク式。面白いのは、リアのスプリングに、先代に当たる「900シリーズ」同様、板バネを使っていることです。ボルボ製トラックに匹敵する堅牢性を確保…というよりは、スペース効率と軽量化が狙いで、グラスファイバー複合素材製のリーフスプリングを1枚、左右に渡してクッションとしています。

試乗したV90 T6 AWD インスクリプションには、オプションのエアスプリング(リアのみ)が装備されていました(20万円)。先日レポートした、通常のアシを持つ「S90 T6 AWD インスクリプション」は、想像以上にハードな、スポーティな味付けに驚かされました。

対して、エアサスペンションをおごられたV90では、入力の角が取られ、若干マイルドになっているものの、やはり姿カタチに違わぬ、硬めの、締まった乗り心地が印象的です。V90の走りからは、FRルックのエクステリアのみならず、高速走行時のスタビリティ(安定性)でも「ドイツ車にひけを取らない!」。そんな開発陣の気合いが感じられます。

ラゲッジスペースは、スタイリッシュに寝かされたDピラーの影響で、従来の「V70」よりわずかに容量を落とした560リッター。6:4の分割可倒式になったリアシートの背もたれを倒せば、1526リッターにまで拡大可能です(V70は、575〜1600リッターでした)。

テールゲートがパワー化されているのはもちろん、リアバンパー下にキーを持った人が足先を入れることでゲートをオープンさせる、ハンズフリー機能が加わりました。その上、ゲートの開閉に合わせ、荷室カバーも前後に開閉する親切設計。だてにプレミアムエステートを名乗っていませんね!

モデルチェンジに当たり、人や自転車のみならず、大型動物にもブツからない(!?)新機能“大型動物検知機能(夜間含む)”が追加され、安全装備がますます充実されました。その上“パイロット・アシスト”こと(半)自動運転を含むドライバーサポートもレベルアップしています。

内外とも、スウェーディッシュにこなれた高級感をアピールするV90。メルセデス・ベンツやBMW、はたまたアウディのアッパーミドルワゴンを検討している方! 有力なオルタナティブの登場ですよ!!

<SPECIFICATIONS>
☆T6 AWD インスクリプション
ボディサイズ:L4935×W1890×H1475mm
車重:2125kg(サンルーフ付き)
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC 直噴ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8AT
最高出力:320馬力/5700回転
最大トルク:40.8kg-m/2200〜5400回転
価格:799万円

(文&写真/ダン・アオキ)


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