【ボルボ V90 Rデザイン試乗】走りとルックスに“北欧流”のスポーティさを貫く

ホルバリー氏によると、(古典的なスポーツカーに見られる)ロングノーズ、ショートデッキはもう古い。現代のクルマでは、キャビンが前方に行くほど「先進的で、カッコいい」とのこと。

つまり、エンジンルームをできるだけ小さくまとめ、その分、キャビンを広く採る“キャブフォワード”コンセプトこそが、機能的で合理的。それゆえ、美しい。その路線を押し進めることが、ナウなカッコ良さにつながる…というわけです(プレゼンテーションの最後に示されたのは、キャビンがポツンと載ったF16ジェット戦闘機のノーズ部分でした)。

説得力がありましたね。実際、同氏の手腕は見事なもので、その後、ニューモデルがリリースされるたびに、木訥(ぼくとつ)な“ブレッド&バター”ブランドはあか抜けて、安全&環境コンシャスの流れに乗ったこともあり、場合によっては“トレンディ”で“オシャレ!”と見なされるようになったのです。

こうして高まった評価を背景に、“プレミアムカー”としての果実をつみ取るべく、価格帯を上げて市場に投入されたのが、SUV、セダン、ワゴン、そして、クロスオーバーがそろえられた新生90シリーズというわけです。日本市場では、SUVの「XC90」が先行販売されて高級路線の地歩を固め、1年遅れで、残る3モデルの輸入が開始されました。

今回、その中のワゴンボディ「V90」のスポーティ版「V90 T6 AWD Rデザイン」に乗ることができたので、感想を報告します。

新しいV90の特徴は、ボルボらしからぬ長いノーズと、前方に向かって倒されたリアガラス。いずれも、これまでの同社のデザイン言語にはなかった要素です。新90シリーズは、“SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)”こと新しいプラットフォームを使うに当たり、エンジンルームを前後に長く採り、フロントタイヤの位置を前方にズラしました。

キャビンをできるだけ大きくするキャブフォワードを捨てることで、FF(エンジン横置き/前輪駆動)をベースにしながら、FR(エンジン縦置き/後輪駆動)と見まがうばかりのプロポーションを手に入れたわけです。また、ラゲッジスペース上部の空間が削られることを承知で、リアガラスを前方に傾けました。クルマ全体でスタイリッシュなフォルムとしたのです。

実用性を追求しつつ、ブランドのイメージを刷新することに成功したボルボでしたが、さらなる高みを目指すためには、基本的に保守的な顧客を相手にすることもあり、伝統的なFRプロポーションがどうしても必要と判断したのでしょう。

無責任な外野は、「どうせAWD(4WD)モデルがあるのだから、エンジンを縦置きに戻せばいいのに」と安易に考えるのですが、そうはしませんでした。エンジンを横に置いた方が、エンジンルーム内で前後に空間を確保できる。イコール「衝突安全性が高まる」からです。新車の開発時には、反発&衝突することが多いデザイナー陣とエンジニアたちですが、エンジン横置きのFRプロポーションに関しては、互いに「ウェルカム!」だったそうです。ボルボらしい逸話ですね。

さて、V90のRデザインです。試乗したT6のパワーユニットは、2リッター直4ターボ+スーパーチャージャー(320馬力/40.8kg-m)。2リッターターボを積む「T5」(664万円)と、2リッターターボ+スーパーチャージャー+電気モーターの「T8 ツインエンジン」(899万円)の間に位置する中堅グレードです。

同じく、2リッターターボ+スーパーチャージャー搭載の「T6 AWD インスクリプション」(769万円)と比較すると、ベンチレーションやマッサージ機能まで備えるインスクリプションのコンフォートシート(ブロンド/アンバー/チャコール)に対し、Rデザインはシンプルなスポーツシート(ブラック)。ヘッドアップディスプレイを持たない代わりに、ギヤをマニュアルで変えられるパドルシフトが装備されます。

ホイールはどちらも20インチ(デザインは異なる)ですが、Rデザインには、専用のスポーツサスペンションがおごられます。一方、インスクリプションは、オプションながら電子制御式のエアサスペンション(リアのみ)を選択できます。デザインの好き嫌いは別にして、機能面でエアサスが欲しいと思ったら、Rデザインは選択肢から落ちることになります。本格ワゴンを選ぶに当たっては、ココ、大きなポイントですね。

Rデザインの外観をチェックしてみましょう。ワイド感を強調した専用グリル、スポーティなルックスの前後バンパーはお約束として、意外に効いているのが、前後ドア部と荷室部のサイドウインドウをグルリと囲むウインドウトリムが、シルクメタルとなっている点。マットシルバーにペイントされたサイドミラーと呼応して、クールさを加速させます。

ドアを開ければ「黒一色!?」と思わせる室内。大きなセンターディスプレイを囲むグロスブラックのパネル。そして、カーボンパネル。ところどころに使われるメタルパーツが、ググッと雰囲気を引き締める。これまでのボルボ車とは無縁だった“艶”を感じさせる、というのは、いい過ぎでしょうか。

エンジンをスタートさせて走り始めれば、文句なく速い。フロント:ダブルウイッシュボーン/コイル、リア:マルチリンク/横置きリーフスプリング(!)の足まわりは、アンチロールバーを含めて前後とも相当に強化されているので、標準モデルに輪をかけて、ハード寄りな乗り心地。それでいて、存外に不快感がないのは、応答性に優れるモノチューブダンパーが、路面の細かい凹凸をきれいに吸収してくれるからでしょう。

週末ごとに、またはオフのたびに、長距離をものともせずにワゴンを走らせて、時に自然とたわむれる。そんな心身ともにリッチなオーナーに最適。憧れます。もちろん、日本全国を縦横無尽に行き来して、ロケ撮影を敢行するフィールドカメラマンにも、ピッタリ。憧れます。

なろうことなら、ボディカラーはオニキスブラックメタリック…はちょっと暑苦しいので、バースティング(紺)メタリックかオスミウムグレーメタリックのRデザインだと、専用の仕様が映えていいのではないでしょうか。うーん、憧れます。そのほか、エレクトリックシルバーメタリックと、2種類の白(アイスホワイト/クリスタルホワイトパール)も選べます。

<SPECIFICATIONS>
☆T6 AWD Rデザイン
ボディサイズ:L4935×W1880×H1475mm
車重:1860kg(サンルーフ付き)
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC 直噴ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8AT
最高出力:320馬力/5700回転
最大トルク:40.8kg-m/2200〜5400回転
価格:769万円

(文&写真/ダン・アオキ)


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