【趣味カメラの世界 #25】
2025年6月下旬に発売予定のFUJIFILM「X half(エックスハーフ)」(予想実勢価格:10万8000円)は、前編でご紹介したとおり、デザインや操作性など随所に“写真好き”の心をくすぐる仕掛けが詰まった一台。
ただし、このカメラの本当の魅力はそこだけではありません。フィルムモードや2-in-1機能が生み出す、“懐かしいのに新しい”ノスタルジックな撮影体験こそが、「X half」を特別な存在にしているのではないでしょうか。
後編では、フォトグラファーの田中さんが実際に撮影した作例をもとに、このユニークなカメラがもたらす“写真体験の深み”を探っていきます。
監修・執筆:田中利幸(たなかとしゆき)|ファッション誌などでブツ撮りやポートレートを中心に活動するフォトグラファー。カメラ・ガジェット好きで自身で運営するブログ「Tanaka Blog」において、カメラやガジェットに関するちょっとマニアックなことを書いている。
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■“待つ時間”も、写真の一部。「フィルムモード」がくれた懐かしくも新しい楽しみ方
「X half」で最も特徴的な撮影スタイルといえば「フィルムカメラモード」です。設定した撮影枚数(36・54・72枚)を撮り終えアプリで現像するまで、撮った写真が一切見られないという仕様は、ある意味コスパ・タイパ重視の現代に逆行したもの。
とはいえ、筆者のようにフィルムカメラに親しんだ世代にとっては、撮影結果がすぐに分からない“あの感覚”が懐かしくも新鮮に映ります。
このモードでは、背面液晶には撮影枚数などの最低限の情報のみが表示され、日付けの有無やAF/MFの切り替えもこの画面で行えます。構図は、液晶ではなく光学ファインダーを覗いて決めるスタイル。しかもこれはEVFではなく、昔ながらの“素通し”のファインダーです。
そのため、レンズの前に指がかかっていても気づかずシャッターを切ってしまう…なんてことも。けれど、それすらも“失敗の味”として楽しめるのがこの撮影スタイルの良さ。ちょっとくらいアバウトでも、「まあ、いっか」と思える感覚が、不思議と心地よく感じられました。
かつて「写ルンです」などを使っていた頃にもよくやってしまった失敗ですが、今回のカメラでも、ついうっかりレンズキャップのストラップが映り込んでしまいました。現像するまで気づけないので、あちゃーとなるのですが、それも含めて楽しめるのがこのカメラの不思議なところ。
そんな“うっかり”すら、どこか笑って受け入れられるような、やさしい気持ちにさせてくれるカメラだなと感じました。
設定した枚数を撮り終えたら、専用アプリで現像の時間です。カメラとアプリを接続して、使いたいフィルムを選ぶと、まずはネガフィルムのような状態で撮った写真の一覧がずらり。そして、少しずつ、写真に色がついていきます。
パッと画像が表示されるわけではなくて、ほんのりじわじわ、という感じなので、思ったより時間がかかります。でも、不思議とその“待ち時間”も楽しいんです。一枚ずつ色がのっていく様子をぼーっと眺めていると、なんだか現像所で写真が仕上がるのを待っていた昔の感覚がよみがえってくるような。
アプリのUIまで含めて“写真を楽しむため”に設計されていて、撮る前から撮ったあとまで、ずっと楽しい。「X half」って、そういうカメラなんだと思います。
現像が終わったフィルムは、1本まるごと“コンタクトシート”として1枚の画像で保存できます。明るすぎたり、ちょっとピントが甘かったり、そういう写真もそのまま一緒に並んでいるんですが、それもまた味のひとつ。
フィルム1本ぶんの記録を、ひとつのストーリーとして楽しむ。うまくいかなかったカットも含めて、「あの日こんなふうに撮ってたなあ」と思い返せるのも、このカメラならではの面白さだと思います。