【VW ティグアンTDI試乗】待望の4WDは最新クリーンディーゼルと好相性!

■VWの最新電子デバイスと4WDシステムを採用

2代目ティグアンの上陸時、1.4リッターのガソリンエンジンを積む「TSI Rライン」をドライブした際は「これで十分じゃない! 走りもVWらしくしっかりしているのに軽快で、これなら国内外のライバルとも十分渡り合えるはず」と思いました。でも実をいうと、ちょっとモヤモヤしていたんです。ドイツ本国向けには用意されている4モーションや、ディーゼルエンジン搭載車のことが…。そんな背景もあって、TDI 4モーション上陸の知らせを聞いた時は「ついに来たか!」と思わずニヤリとしてしまいました。

新たに日本の地を踏んだTDI 4モーションには、「コンフォートライン」(417万9000円)、「ハイライン」(498万9000円)、「Rライン」(529万円)という3グレードが用意され、ネーミングのとおり、そのすべてがディーゼルエンジンとフルタイム4WDの組み合わせとなります。全長4500mm、全幅1860mm(Rライン)、全高1675mmのボディサイズは、ガソリンターボ+FF仕様と共通。ラゲッジスペースは通常時で615L、リアシートを倒した状態では1655Lを確保しています。ちなみに、ガソリンターボを搭載するティグアンは、現在のところメカニズムに変更はなく、駆動方式も依然としてFFのみの設定となっています。

エンジンは、排気量2リッターの直列4気筒、直噴ディーゼルターボで、最高出力は150馬力、最大トルクは34.7kgf-mを発生します。ほぼ同時期に導入されたミニバン「ゴルフトゥーランTDI」と基本的に同じエンジンで、排気ガス浄化システムは、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)と尿素SCRシステム(選択式還元触媒)、高圧/低圧EGRを組み合わせており、日本の“ポスト新長期排ガス規制”もクリアしています。一方トランスミッションは、トゥーランTDIの6速AT(DSG=デュアルクラッチ式)に対し、ティグアンでは7速AT(DSG)を搭載しているのが特徴といえるでしょう。

4WDシステムの4モーションは、“ハルデックスカップリング”を採用した第5世代のもの。前後輪のトルク配分は100対0から50対50まで、走行シーンに合わせて連続的に変化する仕組みとなっています。つまり、低負荷走行時には、前輪側へトルクを配分することで燃料の消費量を抑え、発進・加速時や路面が滑りやすい時などは、後輪へのトルク配分を増やして安定した走りを実現します。

加えて、ティグアンTDI 4モーションは、ドライビングに関する電子制御システムを素早く調整できる“4モーション アクティブコントロール”を搭載。ダイヤル操作で走行モードを「スノー」、「オンロード」、「オフロード」、「オフロードカスタム」からセレクトでき、例えば、スノーモードでは氷雪路でのトラクション向上を図り、オフロードモードでは下り坂になると“ダウンヒルアシスト”を、上り坂では“ヒルスタートアシスト”を作動させるほか、滑りやすい路面での制動性能を高めるなど、走行状況にマッチした特性を瞬時に呼び出せます。

またTDI 4モーションは、全車速追従機能付きの“ACC(アダプティブクルーズコントロール)”や、駐車支援システム“パークアシスト”を全グレードに標準装備。さらに上級グレードには、車線を逸脱しないようステアリング補正を行う“レーンキープアシスト”や、渋滞時などに加減速やステアリング制御を行う“トラフィックアシスト”を標準装備するなど、運転支援システムの充実ぶりは注目に値します。この辺りは、すっかりプレミアムブランドとしてのポジションを得た近年のVWらしいところで、もはや“国民車”を意味するメーカー名が不釣合いに感じるほどです。

■落ち着いたたたずまいと生真面目さはVWならでは

さて、実車と対面を果たし、近くに遠くに眺めてみましたが、エクステリアにおけるガソリンターボ仕様との相違点は、リアゲートに付くエンブレム程度。今回の試乗車であるトップグレード「TDI 4モーション Rライン」には、専用形状のフロントバンパーや、ひと際ワイドかつ大径のホイール(試乗車はオプションの20インチを装着。標準仕様は19インチ)が装着されていましたが、その辺りもガソリンターボ車と共通です。

メルセデス・ベンツ「GLCクーペ」やBMW「X2」のように、クーペSUVといいますか、スタイル重視のコンパクトSUVが増えている昨今にあって、ティグアンのたたずまいは一見すると、保守的に映ります。しかし、四隅がしっかり張ったボディに、最新のVW車らしい直線基調のディテールを配したエクステリアは、SUVらしい力強さとクリーンさを両立。派手さこそないものの、ノーブルで知性を感じさせる容姿に、好感を抱く人も多いのではないでしょうか。

インテリアも、基本的にはガソリンターボ仕様と同じですが、センターコンソールに備わる4モーション アクティブコントロールのダイヤルが、このクルマの素性を物語ります。ダッシュボード回りのデザイン、操作系のレイアウトも、「ゴルフ」を始めとする最新VW車の流儀に則ったもので、見やすく、扱いやすいという優等生ぶり。初めて乗る人も、きっと基本的な操作に迷うことはないでしょう。

さて、いかにも頑丈そうな、しっかりとした作りのシートに腰掛け、ドシッと重厚感のあるドアを閉めると、ひとクラス上のクルマに乗っているかのような安心感。注目のクリーンディーゼルを始動させると、ディーゼルならではの軽いハミングが聞こえてきますが、静粛性は十分です。直前まで乗っていたトゥーランのTDIと比べると、車内の静かさはティグアンの方が一枚上手。そしてその印象は、走り出してからも変わることはありませんでした。

スムーズでキレの良い7速DSGの変速と、トルクフルなTDIエンジンのマッチングは良好で、街中をクルージングする程度の走りではエンジンサウンドの音量に大きな変化はなく、車内は快適そのもの。そこから右足に力を込めると素早くシフトダウンが行われ、一気に加速体制に移りますが、2500~3500回転辺りのトルクはまさにあふれんばかりで、周囲のクルマをたちまちバックミラーへと追いやることも可能です。

トップエンドでの伸びやパワー感は、ガソリンターボ仕様が有利といった印象ですが、実用域での右足の動きに対するリニアな加速は、TDIが一歩勝ります。また、加速時はそれなりにエンジン音が高まりますが、遮音はしっかりされていて、フロントからはビートの効いたディーゼルサウンドが聞こえてくる一方、車内後方に騒音がこもることなどありませんでした。ちなみに、100km/h走行時のエンジン回転数は1700~1800回転ほどで、燃費は街中と高速道路を中心に200kmほど走り16km/L弱といったところ。1.7トン級のSUVとしては、十分以上の成績といえそうです。

■20インチタイヤとは思えない快適な乗り心地

そして何より「やるなぁ、ティグアン!」と思わずヒザを打ったのが、乗り心地の良さ。試乗車は、オプションの20インチホイールに255/40R20というワイドなタイヤを履かせたクルマでしたが、その見た目とスペックから想像するほどのハードな乗り心地ではなく、軽快なのに上質だったのです。

例えば、4モーション アクティブコントロールをオンロード、ドライビングプロファイルを「コンフォート」にセットした状態では、大きめの目地段差を通過しても、キャビンに不快な振動が伝わることはなく「コトン…」と小さな音がする程度。また、スポーツモードに切り替え、ちょっとしたワインディングに挑むと、4モーションによる高いロードホールディング性能と軽快なフットワーク、キビキビとしたハンドリングを楽しむことができますが、そんな時も、体が揺すられるような不快さや硬さは一切ありません。ショックアブソーバーの減衰力やステアリング特性を瞬時にコントロールする、オプションの“DCC(ダイナミックシャシーコントロール)”による恩恵も大きいとは思いますが、シーンを問わない快適な乗り心地は、素直に「お見事!」と評したいところです。

快適性と実用性の高さに加え、クリーンディーゼルの力強さと高い環境性能、そして、4WDならではの高い走破力と走行安定性が備わったティグアンTDI 4モーション。全方位スキなしというと、いささかほめ過ぎのような気もしますが、奇をてらうことなく、真っ当なクルマ作りで勝負を挑んできた辺りは、いかにもVWらしいといえるのかもしれません。

確かに、おしゃれであか抜けたクーペSUVが続々と登場している昨今だけに、「もうちょっと遊んでも良かったんじゃない?」なんて思いもありますが、裏を返せば、それくらいしか思い浮かぶ皮肉もないということ。むしろ、砕けたタイプよりも真面目で文武両道、落ち着いたたたずまいのティグアンの方が、相性がいいと感じる人は多いことでしょう。

<SPECIFICATIONS>
☆TDI 4モーション Rライン
ボディサイズ:L4500×W1860×H1675mm
車両重量:1730kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:150馬力/3500~4000回転
最大トルク:34.7kgf-m/1750~3000回転
価格:529万円

(文&写真/村田尚之)


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