歴代作品とともにふり返るMSデザインの変遷【ガンダムMSデザイン40年史】

■女性ファンにより強くなったMS=キャラクターという捉えかた

森田:21世紀で最初の作品となった『機動戦士ガンダムSEED』は、商業的に大きな期待を持って制作された作品でした。私は脚本、特殊設定として携わりましたが、きっと一番プレッシャーを感じていたのは福田己津央監督でしょう。ただ、ご自身で手を挙げただけに自信も勝算もあったはずです。

皆川『機動戦士ガンダムSEED』はある意味で“長浜ロマンロボ”のような(※1)テイストでしたよね。ほかの作品以上に、キャラクターを中心に物語が進んでいましたから。

※1『超電磁ロボ コンバトラーV』『超電磁マシーン ボルテスV』『闘将ダイモス』など長浜忠夫総監督によるロボットアニメ作品。既存のロボットアニメにはないドラマ性、エンターテイメント性により、多くの女性ファンから支持された。東映が企画し、アニメーション制作は創映社、のちのサンライズが担当している

森田:そういった点が、女性にも支持された要因かもしれませんね。『機動戦士ガンダムSEED』に関しては特に、女性ファンがキャラクターとMSを同一線上で好きになってくれたように思います。主人公のキラ・ヤマトが乗っている機体だからとストライクガンダムの立体物を欲しがったんです。本来、ガンダムは主力兵器、量産兵器なので、主人公たちは機体を乗り換えるわけですよ。そこにはあくまでも“兵器”としての愛着しかない。マジンガーZのような“俺の分身” 的な思い入れはないんです。それに対して『機動戦士ガンダムSEED』のMSの場合は“キャラクターありき” としてファンから見られがちでした。従来のMSとは異なる、稀有な存在になったと思います。

皆川女性に加えて、小学生からの人気もスゴかった。当時、信じられないくらいガンプラが売れていましたね。

森田:何とか小学生にもガンプラを作ってもらおうと、低価格化にもこだわっていましたからね。主役機の「1/144ストライクガンダム」を、最初のガンプラである「1/144ガンダム」と同じく300円にしたのもそのためです。

▲『機動戦士ガンダムSEED』の放送開始と同時にリリースされた、300円の「1/144 ストライクガンダム」。値段を抑えるため、組み立て説明書の内容をパッケージに印刷するなどして、低価格が図られた。キットの関節には可動域と耐久性を兼ね備えたボールジョイントを採用する

皆川:1/144シリーズは従来のガンプラよりも簡単で作りやすい設計になっていました。気軽に購入できるよう、コンビニでも流通していましたね。

森田:そもそも『機動戦士ガンダムSEED』で想定していた視聴者は、今までガンダムを観たことのない子供たちでした。そのおかげで新しいファン層が増え、ガンダムファンの年齢層も大きく広がりました。口幅ったい言い方かもしれませんが、『機動戦士ガンダムSEED』はガンダムシリーズの“中興の祖” と言っていい作品でしょう。最大の功労者は福田監督ですよ。ただ、逆に従来のファンから批判を受けることも予想していて。物語は意図的にファーストガンダムのストーリーラインを想起させるようなものでした。制作に当たっていた福田監督の覚悟は、悲壮なものでしたね。ある種、今までのガンダムファンへの “宣戦布告” のようなものだったのかも。

皆川MSデザインも含め、前作と比べられるところがありますから。最初のOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』はもちろん、富野監督自身の続編『機動戦士Zガンダム』もそれまでとは違う作品でした。ある意味、常にガンダムファンは試されていると言えますよね。

森田:作品の多様性によって、MSのデザインも幅も大きく広がったかもしれません。

皆川MSVを『機動戦士Zガンダム』に登場させたように、富野監督自身が広がり続けるガンダム世界を取り込んで『∀ガンダム』を作りましたからね。

森田:そんな作品づくりや、それに関連するMSデザインの考案を年も重ねてきたのが、ほかのアニメにはないところ。長く観ているガンダムファンにとっては、そこも面白さのひとつだと思うんです。

 

■ガンダムMSの歴史におけるガンプラの大きな貢献度

皆川ひと昔前まで、アニメ作品は「いつかは卒業するもの」でした。それを覆したのも、ガンダム作品といえます。ほかのコンテンツと大きく異なるのは、プロダクトが次々と提案されること。その最たるものはガンプラでしょう。コレクションしやすいHGを筆頭にMGやPGといった作り応えが異なるグレードが用意されています。

森田:常に上の世代の受け皿となる商品がリリースされていて、MSのフォルムや精密度がそれぞれ異なりますよね。

皆川ガンプラのグレードは鉄道模型の住み分けに似ているように思います。Nゲージはフル編成でコレクション、倍のサイズとなるHOゲージ(16番)はディテールを楽しむ…みたいな。1/144スケールのHGと、1/100スケールのMGまたは1/60スケールのPGとの違いといえますね。模型における解像度が違うんです。

森田:ただし、スケールモデルは実物があってのもの。鉄道模型なら実車両に近づくよう、メーカー側も購入した側も考えるわけです。一方で、MSは本物がないので、ガンプラをディテールアップしたい時にゴールがどこにあるのだろうと。それこそ実物大のガンダムはあっても、それは“実物の兵器”ではないので正解にならないんです。

皆川それこそが模型のファンが模索している“らしさ”でしょうね。最近では幸いにも、18m級のガンダムが“大地に立った” ことで、影の落ち方や、雨風による汚れ方が実証されたわけで。そういったMSの立体物が建造された意味は、非常に大きいと思います。

森田:設定画のRX-78-2ガンダムを見ていると、股関節により、そもそも脚部が上がらない構造なのがよくわかります。

皆川それがガンプラの進化で上がるようになりました。

森田:アニメのウソに対して、プラモデルがつじつまを合わせてきた…。つまりはMSのデザインに意味を持たせ、手に入りやすいMSの立体物として果たしてきた役割は、非常に大きかったのではないでしょうか。ちなみに、私の中では安彦さんの描かれたプロポーションが “本物のガンダム” です(笑)

皆川アニメの中でつじつまが合わず、実在しないMSだからこそ『ガンダムセンチュリー』みたいなことができた。設定には“ゆるさ”や “遊びの部分” も非常に大事なんです。

森田:そもそもガンプラを両手に持って、どっちが強いか遊んでいるうちに、頭の中で “設定のインフレ” が起きるのが楽しい。その延長線上に、今の我々の仕事があるわけで。設定だけに縛られて、その楽しさがなくなるとツライだけですよ。ガンダムのビジネスは、エンタテインメントの構造が分厚くなった一方で、窮屈に感じてしまうところもありますが。

皆川『ガンダムビルドファイターズ』シリーズみたいに、物語もMSのデザインも比較的自由な作品もありますね。

森田:MSのデザインも含めて、ガンダムシリーズに課題があるとすれば、40周年続いたために相当の遊びをやりつくしてしまったことでしょう。次に何ができるかを考えることが、大きな課題のような気がします。マンネリになることをあえて恐れずに、オールドスクールな作品を作り続けると同時に、新しい作品にもチャレンジする。この2本立てを、維持できるかどうか。我々が「こんな手があったのか!」と思うようなブレイクスルーを、今後登場するガンダム作品やMSに期待したいですね。

 

■ガンプラは同じ題材でもデザインやプロポーションが異なる

ガンプラはサイズが大きいからといって精密というわけではない。例えば、完成サイズが大きい「1/48 メガサイズモデル」は、作りやすさを重視してパーツが簡略化されている。一方、手のひらサイズの「RG 1/144」のキットは、精密度を徹底的に追求。作り応えは満点だ。

RX-78-2ガンダムという同じ題材でもデザインやプロポーションが微妙に異なるのもポイント。こうしたガンプラの多様化の影響もあり、MSのデザインは幅広く進化してきたといえよう。

▲「SDガンダムBB戦士 No.329 RX-78-2 ガンダム」全高約80mm

▲「HGUC 1/144 RX-78-2 ガンダム」全高約125mm

▲「RG 1/144 RX-78-2 ガンダム」全高約125mm

▲「MG 1/100RX-78-2 ガンダムVer.3.0」全高約180mm

▲「PERFECT GRADE 1/60 RX-78-2 ガンダム」全高約300mm

▲「MEGASIZE MODEL 1/48 RX-78-2 ガンダム」全高約375mm

>> 特集:ガンダムMSデザイン40年史

© 創通・サンライズ
本記事の内容はGoodsPress6月号92~97ページに掲載されています

 


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(取材・文/桑木貴章<メガロマニア> 写真/下城英悟 インタニア 園田昭彦)

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